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　スタッフ総出の営業が続く中、IGOからレストラン貸切の依頼が入った。
　当日使用する食材はレストランの仕入れとは別にIGOが手配する上に、丸5日分の売り上げを保証してくれるという大変ありがたい話なのだが、IGOから指定された日程は既に予約で埋まってしまっていた為に、大変迷惑な話でもあった。
　その上、仕込みの量も半端ではない。
　以前、トリコによってレストランの食材を全て食べられてしまった事もあるが、その倍以上の量を指示されていた。
　この上、当日も追加の食材が搬入されるという。
　依頼はIGOの上層部からであったが、担当部署は聞いたことも無い部署だった。
　とはいえ、小松もトリコと関わる前はIGOに所属していても自分の勤務先であるレストランおよびホテルグルメ内部のことしか知らなかった。今は部外者立ち入り禁止の区域にまで足を踏み入れたり、機密事項ではないかと思われる内容をそこの責任者からベラベラ聞かされたりしてしまっているが…。
　しかし、今回の部署は事務局長ですら、すっかり頭からその名が消えていた。
　誰もが忘れられているような部署が「丸5日分の売り上げ保障」などという大金を出してまで持て成す客。
　どんな客なのだろうかと、依頼の入ったレストランどころかホテル中の従業員がざわついていた。
「料理長は明日、何人くらいのお客様が来られるか聞いてますか？」
「それが…事務局長も教えてもらってないみたいで、全然解らないんですよ。この量だとかなりの大人数になると思いますが…」
　人数が解らなければ、食器の準備もテーブルの配置も決める事が出来ず、ホール係りからも苦情が上がっている。
　今までにもIGOからの要請で会食の場を設けたりする事はあったが、必ず前日までには来店する人数を教えてくれていた。　にも関わらず、今回は肝心な情報すら教えてもらえない。
　メニューは用意された材料から料理長判断で決めて良いと言われている為、困るどころか新しいメニューに挑戦出来るチャンスが巡って来た、と喜んだのだが…メニューが決まっても盛り付けを決める事が出来ない。
　出来るなら、今後レストランのメニューに組み込めるように一人前ずつ盛り付けも行いたい所なのだが…　
「どれだけの人が来ても、臨機応変に対処するしかないでしょう。その為にも残りの仕込を早く終らせましょう」
　明日になっても人数が知らされないなら、バイキング形式でセットするしかない。
　ともあれ、このレストランのスタッフならば、直前に変更になったとしても何とかなるだろう。
　小松のそんな甘い考えは翌日一蹴されてしまった。